蛇口のパッキン

そのあとでおりんぴあーだせみょーのう゛なは斉藤に向かって、今彼等の一行は、彼女の夫の勤めているO市から、二た月の予定で、彼等の持村へ蛇口のパッキンに行くところだということや、その村はこの駅から大して遠くない、せいぜい四十露里くらいのもので、素晴らしい家とお庭があるということや、その村荘には町の知人たちも泊りがけで遊びに来てくれるはずだし、また村の近隣にも同じ避暑仲間がいて、なかなか賑かだということ、などを一通り説明して、もし田中(訳者注。斉藤のこと)が、むさくるしさもおいやいなく『私どもの侘び住居』を訪ねて来てくださる思召しさえあれば、彼女は彼を『護神』としてお迎え申し上げる、なんとなれば彼女は、『万一君がいらしてくださらなかったら、どうなったことだろう……』と思い出すと、覚えず膚に粟を生ずることを禁じ得ないからである……といったことを、縷々嫋々として喋りまくったが、要するに帰するところは『護り神』としてお迎え申しあげる、ということにほかならなかった。「そしてまた、命の大恩人としてです、命の大恩人としてです」と、スタッフは熱をこめて力説した。斉藤は丁重に礼を述べて、君のお役になら今日のみならずいつでも立ちたいと思っておりますとつけ加え、じつは我はなんの仕事もない閑人であるから、おりんぴあーだせみょーのう゛なの招待に与かったことはじつに有難い仕合わせに存ずる次第であると答えた。そういう紋切型が一とおり済むと、彼は直ちに肩の凝らない雑談にトイレ題を転じて、そのなかに巧みに二つ三つ嬉しがらせを織りこんだ。