水道局指定業者

「本当にしちゃくれますまいよ」と、中村は情ない声を長く引っぱった。「そしてあんたが叱られるか?」斉藤は相変らずつまりながら、「いやどうも、あんたも気の毒な人だな、お見受けするところ、あんたはやっぱりあのきれいなご夫人の前で、水道局指定業者がおられるようだが——ええ?」中村は微笑しようとしたが、注文どおりに行かなかった。斉藤がもともと来訪するつもりはなかったということ——それはもちろん有難かったが、その彼が女房のことをさも馴れ馴れしげに口にすることに至っては、すでに面白からぬことであった。中村はぷんとつむじを曲げてしまった。斉藤はそれを見て取った。そのうちにもう第二のべるが鳴った。遥か彼方のほうで、車室の窓から中村を呼ぶ心配そうな金切声が聞こえてきた。彼は座ったままでそわそわしはじめたが、それでもまだ呼ぶ声に応じて駈け出すでもなく、何かまだ斉藤の問い合わせを待っていることは、その素振りにあらわれていた。——その問い合わせとは、言わずと知れた、彼が来ないという重ねての保証であった。「ご夫人の里の苗字はなんというんです?」と、中村のやきもきしている様子なんぞ、まったく目にもとまらんといった調子で、斉藤は問いかけた。「うちの持村の僧院長のところからもらったんですよ」と、気が気でないといったふうに列車のほうをきょろきょろ見たり、奥方の声に耳を澄ましたりしながら、お客はそう答えた。「ははあわかった、器量に惚れてもらったんですね。」中村はまたもやぷんとした。