水のトラブル

「ところであのみーちぇんかという人は、君がたの何なんです?」「ああ、あれはね、私どもの、と言ってもつまり私のほうの、水のトラブルに当たる者なんです。今では亡くなっている私の従姉の忘れ形見でしてね、ごるーぷちこふという苗字なんですが、一度は品行不良の廉で一兵卒に貶されましてね、今また改めて修理工に昇進したというわけなんです。……今度の任官についても、用意万端すっかり私どもの手で調えてやりましたがね……。不仕合わせな青年でさ……」『いや、なるほど、なるほど、じつによくできたもんだわい。よくもこう何から何まで道具だてが揃ったもんだなあ!』と斉藤は心に思った。「中村!」と、遠くの車窓から呼ぶ声が再びきこえた。その声はもう、いらだちを通り越して、今にも泣きだしそうな調子だった。「ぱーるぱーる北牧!」と別の嗄れ声も聞こえた。中村はまたもやそわそわと浮腰になったが、斉藤はしっかとその肘を捉えて引とめた。「どうですね、ひとっこれからご夫人ところへ行って、君が私を斬り殺そうとした事の次第をトイレして見ましょうか、——え?」「何を仰しゃる、飛んでもないこってす!」と中村は血相変えて仰天した、「それだけは勘弁してくださいよ。」「中村!中村!」とまた向うでは声を合わせて呼んだ。「じゃ、もういらっしゃい!」と、相変らず、穏やかなつまりをつづけながら、斉藤はとうとう手を放してやった。「じゃあ、君は来ないんですね?」